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更新履歴、拍手の返信、時に明星について鬱陶しいほど語ってみる
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 ご無沙汰しておりました。先月末以来、職場がバタバタしていたり魔の領域ツイッターさんに貼りついていたりでちっともブログを書きに来なかった阿呆の簾屋でございます。
 いい加減簾屋式穆弘兄貴の設定を上げようとか、そろそろ簾屋式水滸の小話でも投下してみるかとか、今日うっかり妄想した某ラノベで戴翠パロとか、そういう色々なネタはあるのですが、全部放り捨ててここのところの読書記録を久しぶりに行っておきます。

 放り捨てたネタは、その内にやるよ!



 先月の事。
 オフで書いてたオリジナルが似非中華物だったので、その参考にとラノベの中華物を何冊か我が町の図書館で予約しました。
 何を参考にしたかったか、ってそれらが地の文で登場キャラたちの服装をどう描写しているか、です。西洋風ファンタジーなら「スカート」とか分かりやすい単語で描写できるけど、中華風だったら「裙」(「裳」でもありかな)と書かなければならない。そういうディテールは大切ですのよ。
 ――が、例の大震災のために図書館は三月いっぱい休館。
 ちなみにオリジナルの締切、三月末。

 簾屋「……(´Д⊂ヽウェェェン」

 で、四月になって図書館開いて。やっと借りてきて読みました。
 借りてきたのはこの三冊。

 夢野リコ『傾国の美姫』(コバルト文庫)
 文月更『小弓姫 黒龍の珠玉』(B’s‐LOG文庫)
 村田栞『東方妖遊記 少年王と第一の盟約』(角川ビーンズ文庫)

 ダラダラ感想参ります。辛口ですが、まあ仕方ない。だって私の中で中華物の至上は田中芳樹先生、井上祐美子先生、宮城谷昌光先生、だもん。


『傾国の美姫』は、寿命と引き換えに何でも願いを叶えてくれる魔法の鏡と、その持ち主になってしまった少女二人の物語。
 表題作『傾国の美姫』はコバルトの賞を受賞した短編(いや、この分量なら中編?)で、『奏でるは龍の歌、興国の調べ』という書き下ろし中編も収録されています。
 まず一本目。『傾国の美姫』。
 まあ、可もなく不可もなく、という感じのストーリー。ヒロイン可哀相ね、でも最後は幸せで良かったね、でおしまい。これで大賞取れるのかー、とぶっちゃけ思った。キャラ造詣とガジェットはいいと思うが。
 ただ、そのガジェットで気になったのが一つ。
 この世界ないし国の名前は一体どうなっているのか。
 ヒロインの旦那の名は、楊安。これが即位し、楊王と呼ばれる。
 ヒロインと旦那の子の名は、楊恵。これが後に即位し、恵王と呼ばれる。
 ……どゆことー?
 ちなみに国の名前は江安。初代王(旦那の楊安の祖父)は江王(だったと思う、確か)。何でやねん。
 ヒロインの名前は秀瑛。農民の割に綺麗な名前である。そこは多分突っ込んじゃいけないんだろうが。
 まあそんな重箱の隅をつつくような突っ込みはさておいて、一番の突っ込みを。

「で、どうして鏡に『あのアホ舅の心を記憶を操作して、私に言い寄った事実をなかった事にし、ついでに私より他の女に目を向けさせて』って願わなかったの?」

 ネット上でこの本の感想をあさっても、この件については誰も突っ込んでないんだよなー。
 鏡は全部の願いを叶えられるわけではない。不老不死はアウトだし、死んだ者も生き返らせられない(ただし、生き返らせたい本人の死体か魂があればOK)。
 だが鏡的にアウトなのはこの二点だけで、精神操作はおそらくOK。だったら王の閨房に入って変な薬を盛って浮気疑惑を持たれるよりかは、王の精神を操作して欲情された事実も言い寄られた事実もなかった事にしちゃった方が、根本的な解決になるし疑いも持たれないし、よっぽどいいんじゃないかい?
 これについての反論はおそらく、「ヒロイン秀瑛はこの時第二子を妊娠していながら舅に抱かれなければいけない切羽詰まった状況に混乱をきたし、鏡が提案する『薬を盛って抱かれてないけど抱かれた記憶を王に植えつければいい』という策に安易に飛びついてしまった」なんだろうなー。王太子妃にはなったけれど元を正せばそこまで機転が利くわけでもなさげな性格の農家の娘、切羽詰まった状況で全てを引っ繰り返す大逆転を求めるのは端から無理かー。
 が、この点について誰も突っ込まないし誰もフォローしないので、どうしても引っかかるのであった。
 二本目。『奏でるは龍の歌、興国の調べ』。
 やっぱり可もなく不可もなくなストーリー。これもネット上じゃそれなりに評判いいんだけど、キャラに感情移入云々以前に、何かこう、いまいち私の心の琴線に響かなかった。新人のデビュー作に求めすぎか。
 気になったのは、何かあっさりと王朝転覆が完了している点。
 おいおい、いくら何でもそりゃなかろーよと胸中で突っ込んだ。どんな王朝にも忠臣というのはいるし、僻地に立て籠もってでも頑張るそいつらの抵抗は下すのに大変だ。信じられないなら、南宋の最後や明朝の最後に登場する武将を調べてみるといい。元朝や清朝は、意外にそいつらにてこずらされている。


『小弓姫 黒龍の珠玉』は、上記の『傾国の美姫』と同様新人のデビュー作。
 ただこれは、何というか……まあはっきり言おう、「これで受賞できるんだー」とマジで思った。
 ストーリーは、別に面白くも何ともない。ミスリードもない、ワクワク出来る伏線もない、驚きもない。いや、「自称女、でも正体は男の子」があったか。でも正直イラストからして女らしさも中性的な部分もなかったから、特に驚きもしなかったような。男の娘をやるなら、もっと女の子らしくやらないと驚かれやしない。そこだけは学んだ。
 キャラクターとそれにまつわる話は……これも、微妙だなぁ。そもそもヒロインのどこがいいのかまるで分からなかった。魅力はどこだ? 顔が可愛いだけじゃん。自分は一体何なのか、について悩むなら、もっと徹底的に悩ませろよ。アイデンティティの崩壊は、「柳家の娘でも、黒龍賊の小弓姫でもない、ただのリ珠(漢字面倒だから出さない)にいてほしいんだ」であっさり解決するようなものでもなかろうよ。
 あと、例え記憶になくても、実感なくても、目の前で実の母親の首が自分の仲間(正確には、国流賊の親玉で婚約者の父親)によって落とされた事について、もっと思い悩めよ。ここの点がまるでスルーだったのが素晴らしく違和感を覚えた。
 そして、この話最大の突っ込みどころ。

「で、この物語って、中華風の世界観でやる意味ってあるの?」

 作者はキャラの名前とその意味が重要、という風に書いていたけれど。
 別にそれは西洋風の世界観でもいくらでも出来るし(英語由来でなくても、ラテン語由来とかならいくらでも素敵な名前は作れるよ)、「中華風でなければならない」というガジェットがストーリーにガッツリ食い込んで離れない、という事でもない。
 もっと言えば、この『小弓姫 黒龍の珠玉』という物語は、固有名詞を変えればそのまま西洋風ファンタジーでも行けてしまう。
 よくこれに賞を取らせたなぁ、編集部。それくらい、特に面白くもなくて、薄っぺらい話だった。設定がそこそこ作り込んであるのは分かるけど、それが効果的に生かされているわけでもないし。
 何だろう、可愛いヒロインにいい男が群がっていればそれでいいのか?


『東方妖遊記 少年王と第一の盟約』は、これは新人の作品ではないですね。既にシリーズを二つ描き終えた中堅どころの、三番目のシリーズの一作目。
 さすが中堅どころ、キャラ造形、語り口、設定などなど、安定してます。上記二作品よりかは楽しんで読めました。
 舞台は中華風の異世界ではなく、殷代中期。別に殷代じゃなくてもいいんじゃない? と今でも思ってますが、そこまで酷い違和感はない。まあ正直、舞台が古代日本でも成り立ちそうな話ではありますが。
 ただ登場キャラで、この時代の男子なのに「楓牙」などの如何にも少女向けラノベ中華物にありがちな字面の名前を見た時は、ちょっと首を傾げましたが(宮城谷御大の『太公望』などを読むと、二字名はむしろ希少な部類と思われ)。
 ストーリーは、大長編の序章、って感じで話はそこまで動いていないような。簡単に言えば、「主人公が伝説の武器を手に入れ、仲間を一人ゲットだぜ!」……これで大方説明できるからどうしたものかと。
 ああ、そういえばただ一つだけ突っ込みが。

「『黄』帝の作った『炎』招戈、ってどうなの?」

 簾屋が何を突っ込みたいか、これで分かった人は中華の基本が分かってらっしゃる。分からなかった方は、五行説を調べてくださいな。
 似たような設定なら秋梨惟高『もろこし銀侠伝』に出てくる銀牌がある。『銀牌女侠斬妖伝』は現地に本当にある物語、でいいのかしら? だからそういう設定の「しっくり」感は『もろこし銀侠伝』の方が上で然るべきだが、ともあれ、五行説に真っ向から勝負を挑むような設定はいいのかこれ。


 総評としては、「中華物をわざわざ書く割には安っぽい中華的世界観の使い方しか出来ない新人だったな」ですかね。
 後宮、きらびやかな着物、傾国の美女、三国志的な軍師、(宗教的裏づけが特にない)道術……そういう、言ってしまえば上っ面な「中華」だけを寄せ集めただけで、中華的な要素の真髄とも言える部分=水滸伝で描かれるような、もっと熱かったり泥臭かったりする部分を使おうとしない。
 そういう「綺麗なところ」だけを集めて作るのが少女向けラノベといえば、それまでなんでしょうけど。それでも、それなら別に中華風ファンタジーでなくてもいいじゃない、と言いたい。人豚作りも纏足も凌遅も子供ポイ捨ても息子の女房強奪も刎頚の交わりもない中華なんて、私は中華と認めたくない。

 今後の中華風ラノベの読書予定は、『彩雲国物語』に再挑戦と『東方妖遊記』の二巻待ち、あと一応『小弓姫』の二巻も(どんな話になっているか見たいから)読んでみる。それとやっぱりコバルトの『天命の王妃』も借りて読もう。
 それにしても、富士見や電撃では最近余りに見なくなった中華物が、コバルトや角川ビーンズなどの少女向けレーベルでは割りとある。これってどういう事?
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