久しぶりにいい水滸翻案を読んだ

　久しぶりに原典寄りの水滸伝成分を補充したのでその話を書こうと思う事。

　本日補充した水滸伝成分は、『小説すばる』に掲載された『もろこし銀侠伝』の作者・秋梨惟喬の短編二本。同じ雑誌に北方御大の楊令伝が掲載されていたのを見た時の私の微妙な感情は、皆様、どうぞ推し測っていただきたい。
　というわけで、下記からはその短編二本の結構適当な感想と参ります。ネタバレはなるべくなしで行くよ！　気になったあなたは下記からどうぞ！

　ではダラダラ感想れっつ・ごぅ！


　・『巫蠱記‐水滸地煞伝‐』（『小説すばる』２００８／０１号掲載）

　登場好漢は朱武と樊瑞。時制は原典終了後、官職を返上して二人でまったり放浪なう。放浪の途中で昔の仲間と再会したり何だったりをしながら、辿り着いた村で事件に遭遇。よし俺たちに任せろ、だって俺たち梁山泊の好漢だし！

　まあこんな出だしで始まる物語ですが、秋梨先生の作品なので、端的に言えば「水滸＋ミステリー」という内容です。
　そして原典水滸寄りの内容なので、道術とか幻術が普通に出てきます。タイトルからしてそうですし。この辺りの薀蓄が邪魔にならない程度にきちっと書かれていて、いやもうさすが秋梨先生。
　考える朱武と動く樊瑞のコンビって意外といいんだなぁと思い知らされた。秋梨先生の樊瑞がいいキャラしてます。いい樊瑞です。そして戦える朱武も素敵だ。惚れていいですか朱軍師！
　肝心の謎ときパート。巫蠱の元凶となるブツは一体どこに隠されているのか？　――いやぁ、これは結構意外なオチでした。同時に想像するとゾッとした。怖いこれ。
　で、そんな術を施した悪人が、水滸後伝でお馴染みの郭京だったという。まさかこんなところでお前の名前を見るなんてな郭京！　正直ビックリだ！　秋梨先生、後伝ネタの短編書きましょうよ！


　・『斬首録‐水滸天罡伝‐』（『小説すばる』２００９／０２号掲載）

　こちらの登場好漢は明星でもお馴染みの戴宗と李逵。まだ江州の牢城にいる頃の二人が、馴染みの都頭に頼まれて江州の近隣の村へ。そこの保正の家の離れには反乱の蜂起に失敗して逃亡中の道士が隔離されていて……――

　大体こんな感じで始まるこの短編。巫蠱記に比べるとちょっと短めかな。ですが、短くても読ませる話です。そして戴院長が戴院長で李逵が李逵。個人的に院長が李逵の事を「鉄牛」呼びしていたのが最高にツボでした。
　オチについては、何となく読めたかなこれは。だがそれに対する李逵と戴院長の対応がもう（笑）。李逵、そんなところで（ネタバレになるので伏せます）じゃない。そして戴院長、貴方は雄々しすぎます。いいんですかそんな事して。ですがそんな貴方が実に格好良かったです。惚れていいですか戴院長。


　総論としては、二本とも実に秋梨先生らしく、かつ、原典水滸らしい短編でした。「水滸とミステリー」という語に萌える人は読んで損はありません。北方水滸より原典水滸のテイストの方が好き、という人も、楽しめる事請け合いです。
　ただし掲載号は結構古いので、読みたいと思われた方は、図書館を頼る事をお勧めします。大体どこの図書館も雑誌のバックナンバーはある程度取っておくので。調べてみて、該当の号がまだ所蔵されていれば儲けものです。
　しかし秋梨先生、もっと水滸翻案の短編を書いてくれませんか。もっと書いて短編集出してくれませんか。買うから！　言い値で買うから！　水滸迷全員が買うから！　だからもっと書いて、もっと読ませて先生ー！



　ちなみに同じ号に北方御大の楊令伝も掲載されていましてね。
　目次を見たら、秋梨先生の箇所にこんなあおり文が。

「幻術が存在する、もう一つの『水滸』世界」

　…………………………

　うん、あれだ。
　分かってる。楊令伝と区別するためだよね。分かってる。分かってるよ。別に特に含みとかそういうのはない事は分かってる。
　でも、何かな、何かこう……モヤッとしたんだよ。まるで「幻術の出てこない水滸」が正統、とでもいうような書き方に感じられて（これは私の被害妄想かもしれませんが）。
　くそぅ。原典テイスト水滸、もっと流行れ。