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更新履歴、拍手の返信、時に明星について鬱陶しいほど語ってみる
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 皆様、ブログではご無沙汰しておりました。ツイッター上にてお付き合いのある方は毎度お馴染み、簾屋(微妙にスランプなう)です。
 微妙にスランプだったので物がロクに書けませんでした。いただいたネタと誕生日リクエストと中編と、ノルマが三本あるのに……! どういう事なの……!? あと自分水滸の燕順の設定……!
 まあともあれそんなわけで、今日は、リハビリがてらの創作水滸の小話です。分量的には短編です。創作水滸自体何と四ヶ月ぶりという極めてアレな事になっているのですが、まあ何ですか、気にしない。
 相変わらず「需要? 何それ食えんの?」的な事になっていますが、遠慮なくそして問答無用に投下行くよ!
 ちなみに本日のブツの内容は、自分水滸で呉用×朱武だから、CP物なぞお呼びじゃねぇって人は見ない方がいいよ! あと朱武さんの設定をフライング公開しちゃうけどやっぱり気にしない!

 その前に。
 拍手ありがとうございました! スイマセン、返信はまた次回に……!

§



 ありがちな話よ、と朱武はクスクスと笑った。





神機軍師はかく語りき






 ――親に売られたのよ。まだ五つか六つの頃。兄さんとか弟とかいたような気もするけれど、もう忘れてしまったわ。
 女の子で顔が良ければ、行き着く先がどこかなんて言わなくてもいいわよね?
 私が住んでいた辺りで一番大きな城市の、その中で一番の妓楼。そこが私が落ち着いた先だった。
 正直に言うわね。ここに来られて良かった、って思ったの。きちんとした衫や袷や裙子、水みたいな粥じゃないちゃんとしたご飯、穴の開いてない布団に、勉強。あと十年もしない内に客を取らされる、っていうのは分かっていたけれど、それを差し引いても、妓楼での生活は夢のようだったわ。
 ああ、でも、纏足だけは勘弁してほしかったわね。
 男の人には分からないでしょうけれど、あれ、本当に痛いのよ? だって足を折り曲げて無理矢理小さくするんですもの。慣れない内は痛くて痛くて、足を縛る紐をほどいてしまいたいけれどそんな事をしてお母さんに怒られるのが怖くて怖くて、夜寝る時、布団の中でいつも泣いていたわ。私だけじゃなくて、他の子たちも。
 大体、「三寸金蓮」の何がいいのかしらね。小さな足がいいって言う殿方の趣味っておかしいと思うのよ。中には閨で纏足の匂いを嗅いで興奮する人もいたし。嫌がったり恥らったりするふりをしながら、私、内心で呆れたものだったわ。
 ……え? そんな話はいい? もう、呉用君ってばウブねぇ。顔が赤いわよ?
 読み書きを覚えて、四書五経を読んで、楽器や小唄や詩の練習。楽しかった。貧しい女の身で勉強や読書なんて、妓楼にでも売られないと出来ないもの。だから一生懸命頑張った。お稽古の先生にも筋がいいって褒められた。
 でも、勉強してて一番面白かったのは、どういうわけか兵法だったのよね。妓女にはそんな知識必要ないのに、四書五経に飽きたから孫子様の兵法書を読んでみたら、これがすごく面白くて、のめり込んじゃって。お母さんに無理を言って武経七書を揃えてもらって、全部読んだの。
 特に面白かったのが、陣形とかの説明とか図解とか。図を眺めて、時々自分で作った駒を並べて動かしてみて。その内に「この陣形は、人に例えたらこういう女なんじゃないかしら」とか想像し始めて。陣形同士の相性とかを恋愛に置き換えてみたり、そんな事ばっかり考えて、それがすごく楽しかった。
 ――そんな私の落籍が決まったのは、二十歳の頃よ。
 相手は引退間近の官吏。奥様はもう亡くなっていて、私を後妻に欲しいと言ったの。
 親子か、下手したら祖父と孫くらいに離れていたけれど、私はありがたいと思った。妓女の盛りは二十歳頃まで。歳を重ねれば容色は衰えていくばかりだし、若くて綺麗な子は次から次に入ってくる。盛りの内にいい旦那様を見つけて落籍してもらうのは、妓女の夢と言っても過言じゃないのよ。
 その観点から見れば、私はすごく恵まれていたのよね……。だから、落籍の話は二つ返事で了承した。
 そうして落籍されて、退官して故郷へ帰る旦那様と一緒にそれまでいた城市をあとにして――
 ええもう、笑っちゃうわよ。
 華州に入ったところで、人生が一変したんだから。


 そう、少華山。
 私たちの乗った輿車が少華山の傍を通りかかった時、少華山の山賊に襲われたの。
 ……ええ、そうよ。
 陳達よ。
 あの頃の少華山は陳達一人が頭領で、規模も笑っちゃうくらいにお粗末だったわ。曲がりなりにも山賊をやれていたのは、少華山のおかげね。あそこが攻めにくい地形をしているのは、呉用君も知ってるでしょ? あそこでなかったら、陳達の率いる山賊なんてあっという間に華州軍に叩き潰されていたでしょうよ。
 話を戻すわね。
 とにかく私たちは襲われて、護衛も何人か殺された。
 そして笑っちゃうのが、私を身請けしてくれた、私のこれからを保証してくれるはずだった旦那様が、とっとと逃げ出しちゃった事よね。
 私を置いて。
 ……怒る気にもなれなかったわ。呆れすぎて、逆に笑えてきた。何これ、って。
 ほんのちょっと前まで、幸せで。
 人生の絶頂にいて。
 妓女だったから、華やかな事も楽しい事もたくさんあったけど、辛い事もたくさんあった。だから落籍されて妓女を辞めて、誰かの後妻でも妾でもいいから穏やかに静かに暮らす事を夢見てきた。その夢が叶って、ああこれから、やっぱり色々あるんだろうけれど、でもきっと今までよりもっと幸せになれるんだ――って実感した矢先に、山賊に襲われて、捨てられて。
 そんなだから私、陳達の奴に捕まって少華山の山寨に連れていかれた時には自棄になっていたのね。手籠めにでもするつもりで人の事をいやらしく見る陳達に、言ってやったのよ。

『少華山の賊って、この程度なのね』

 陳達は、それはもう分かりやすく怒ったわ。どういう意味でこのあばずれ、とか何とか、まるで好漢らしくない事を女相手にギャンギャン怒鳴り散らして――え? 嫌ね呉用君、怒鳴られたくらいで怯むわけがないでしょう、この私が。街一番の妓女っていうのは伊達じゃないのよ? 修羅場鉄火場なんか慣れっこよ。
 とにかく顔を真っ赤にして怒鳴りまくる陳達に、こう続けてやったわけ。

『何てしょうもない指揮をするのかしら』
『手下に指示もしないで自分一人で突っ込んできて』
『そのせいで手下の動きは滅茶苦茶、統率なんて取れたものじゃない』
『分かっていて? そんな事だから、たった十五人の護衛に手下を三十人もやられてしまうのよ』
『あの程度の規模、損害を出さずに蹴散らす事くらい簡単でしょうに』
『隊列も組めない、連携も取れない、指揮官は猪突猛進で手下を顧みない』
『しかもこの山寨の、防御の固め方の中途半端な事。せっかくの地形がまるで生かされていない』
『いくら華州軍がヘタレでも、こんな状態なら、早晩叩き潰されるのがオチでしょうよ』

 とにかく好き勝手に、思いついた事をポンポン言ってやったわけ。
 山賊に捕まった女の末路がどんなかなんて、考えなくても分かるもの。慰み者になろうが売られようが殺されて肝吸いになろうが、言いたい事を言って一矢報いてやらなくちゃ、って意気込んだの。
 でもそうしたら、陳達の奴、

『――――…………惚れた』
『……は?』
『あんたの度胸と啖呵と頭の良さに惚れた! 姉ちゃん、いやさ姐御! 俺たちの頭になってくれ!』

 ――……ああ、うん、言わなくても分かるわよ呉用君。
 陳達。
 あいつ、馬鹿なのよ。
 ついでに、あの頃の少華山の手下たちも。
 だって普通、さらってきた女、しかも元妓女を自分たちの頭にしようとは思わないでしょ? いくら頭が良くたって。よっぽど頭脳労働担当がいなくて困ってたのね、って同情さえしたわ。
 でも、そうね、ちょうどいい、とも思った。
 私の旦那様はとっくの昔にどこかに逃げちゃったし、今更郷里になんか帰りたくもないし、妓楼に戻ったところで転落人生が待っているだけ。
 だったら、源氏名も親から貰った名前も捨てて、新しい人生の第一歩を踏み出してみてもいいじゃない?
 そうやって私は、前代未聞の妓女上がりの山賊頭領、神機軍師朱武になったってわけよ。


 順風満帆なんかじゃなかったわ。
 むしろ私に反発する手下の方が多かった。
 ろくに歩けもしない淫売なんかに指図されるなんて、っていう声もあった。
 そんな私でも少華山の第一頭領をやれたのは、陳達が私を立ててくれた事ももちろんあるし、纏足をさっさとほどいて山の中を歩き回って、手下たちに声をかけまくって心をときほぐしていったのもある。私に反抗する余り頭領の座を乗っ取ろうとした奴らを粛清した事もあるし、当然、作戦を立てたり指揮を取ったりして実力を見せつけ、認めさせた事もある。
 でもやっぱり、少華山を運営していく上で一番大きかったのは――……楊春と史進が入山してくれた事よね。


 楊春はね、私より少しだけ早くから山にいたの。
 入山、じゃないわよ。「山にいた」。
 楊春は、捕まっていたの。
 こういう経緯よ。
 私と旦那様の一行が陳達たちに襲われるほんの数刻前、少華山の麓を楊春が通りかかった。いかにも「お金持ってます」っていうボンボンの態で。いいカモだ、って陳達は見て、襲いかかって……――カモられたのよ。
 え? おかしい?
 ……そうね。楊春の実力からすれば、多勢に無勢でも陳達に遅れを取るわけがないわよね。さっきも言った通り、その頃の陳達の頭に戦術なんてないもの。普通なら、どう考えても楊春の圧勝だわ。
 でもね、普通じゃなかったそうなのよ、この時。
 ……お腹を空かせて、今にも倒れそうだったんですって。
 この時の楊春はちょうど家出をしたばかり。全然旅慣れていなくて、昼食もちゃんと食べないまま道を欲張りすぎて――当人曰く、「気が付いたら少華山でした」。
 身ぐるみ剥がされて、その後はお定まりの肝吸いになるところ、今度は私たちの一行が通りがかって。もっと良さそうな獲物がノコノコ麓に来たのだから、もちろん楊春の事なんてそっちのけ。陳達は楊春を山寨の牢屋に放り込むと、私たちを襲いに来て――そのまま忘れてたって言うんだから、酷いわよね、陳達のくせに。
 ともかくそういうわけで、私が牢から出してあげたんだけど、楊春ってばそれに感動して私を命の恩人と拝んで、「是非義姉弟の契りを」なんて言い出して。

『……私は元妓女で、山賊の頭よ? それでもいいの?』
『はい。あくの強い姉には慣れていますので』

 ……どういう意味よと殴ってやっても良かったんだけど、あのフニャッとした笑顔で言うんだもの。何だか毒気が抜かれちゃったわ。
 だから、つい、こう思っちゃった。

 よし、陳達も楊春も少華山も、全部ひっくるめて私が面倒見てやろうじゃない!

 ――あ、そうそう、楊春が入山してくれてありがたかった事ね。
 あの子、強いでしょ。
 体が柔らかすぎて動き方がおかしいっていうのもあるけど、それとは別に、武術の基礎がしっかりしてた。
 あの頃の少華山は本当に食い詰めた農民に毛が生えた程度の力しかなくて、手下の力不足が悩みの種だったの。
 そんな時、基礎のしっかりした楊春が来てくれた。
 緊急課題だった調練の問題が、これで解決したのよ。
 楊春が鍛えた手下を信頼厚い陳達が率いて、私は全体を見てまとめる。少華山の形はこうして決まって、まとまっていった。
 良くも悪くも、小さく――ね。


 少華山の勢いは、一年くらいで伸び悩むようになったわ。
 もちろん良民を襲わないよう徹底させていたし、華州軍とも何度かやり合った。大した被害も出さずに追い返している。山寨に余裕はあるし、ある程度自給自足も出来ていたから食料にも困らない。
 なのに、入山希望者がどうしてか増えなかった。
 その理由、呉用君なら分かってるんじゃないかしら。
 ――――――――……………………ええ、そう、正解よ。
 私は知謀、陳達は手下たちからの信頼、楊春は武芸で、それぞれ少華山をまとめていたけど――問答無用に手下たちを従えさせる、輝きと言うのか、器量と言うのか、そういうものを持っていなかった。
 私たちは三人とも、一山の頭領の器じゃなかった。役者不足だった。
 それを持っていたのは、――皮肉にも――一番の新参者で、一番の歳下の、史進。
 史進が入山した時に私が思ったのは、

『もし、最初に会ったのが陳達ではなく史進だったら』

 だったわ。
 あの時、私たちを襲ったのが史進だったら。
 あの時、少華山に山寨を築いていたのが史進だったとしたら。
 断言できるわ。私は少華山の第一頭領になんかならず、史進の軍師をしていた。
 それくらい、あの子は魅力的だった。明るく屈託がなくて、いい意味で馬鹿で、まっすぐで、でも意外に人の事をよく見ていて、一途。これで派手好き戦好きでしかも強いと来れば、手下たちもついていくってなものだわ。
 史進には人を惹きつける天性のものがある。そのおかげで少華山の勢いは盛り返し、そんな史進が私におとなしく従う事で、新参の手下たちも素直に私に従う、そういうところがあった。
 でも、若かった。
 幼すぎた。
 楊春と同じか、あるいはそれ以上に強かったけど、お坊ちゃん育ちなのもあって、色んな物事に慣れていなかった。一途すぎて周りが見えなくなる事もたくさんあった。
 そして私たちには、そんな史進を第一頭領と仰ぎつつ、上手く手綱を取って成長させる自信がなかった。
 手綱を取り損ねて、死に追いやってしまったら――と思うと怖かった。
 だから私は史進を第四頭領に据えるしかなかった。私の下に置いて、抑える、という選択肢しか選べなかった。
 ……ある意味で、総頭領と史進は似ているんだわ。
 若くて、お坊ちゃん育ちで、明るくて、いい意味で馬鹿で、一途で――――――――

 ……ねぇ、呉用君。
 私、時々思うの。
 もし史進と出会ったのが私でなく貴方だったら、って。
 貴方だったら、きっと史進を上手く育てられたでしょうね。
 逆に、もし私が総頭領と出会っていたのなら、きっと史進にそうしたのと同じように、下に置いて、頭を押さえてしまって――総頭領の輝きを、資質を、消してしまったでしょうね……――

 ――――――――――――――――え?
 同じ事?

 ………………………………………………。
 ……ええ。ええ、そうね。きっとそうね。総頭領の器は、史進なんかとは比べ物にならないもの。きっと私も、ただついていきたいと思ったに違いないわ。
 だって、智多星の貴方がついていきたいって思った人だもの。
 四娘さんや、林教頭や、秦女将軍や、呼延将軍や、花知寨や、柴大官人や、花和尚様や、楊志や、李俊や、孫提轄や、李忠さんや、あの史進や、私たちでさえ、ついていきたいって思った人だもの。
 ねぇ、呉用君。

 だから――信じましょう。

 私たちの選んだ、ここまで惚れ込んだ総頭領が、曽頭市なんていう辺鄙な所で死ぬはずないわ。この梁山泊に帰ってこないはずがないわ。
 林教頭もいるし、阮家の三人や劉唐君もいる。白さんだっている。戴院長が安太医を連れていったし、四娘さんだってとうとう向こうに行った。
 ねぇ、私たちの総頭領が、あの死んでも死ななさそうな悪戯小僧が、安太医の治療を受けるのよ? もうこれだけで大丈夫って気にならない?
 それに、四娘さんもいるのよ?
 あの子が四娘さんをこれ以上泣かせられると思う? 悲しませられると思う?
 だから呉用君。
 大丈夫。
 きっと、総頭領は生きて帰ってくる。
 私たちの所に、ちゃんと帰ってきてくれる。

 ……だから、ね?

 心配しないで、待ってあげましょう?

 私たちの托塔天王が、どこの誰とも分からない奴に矢で射られて死ぬなんて、そんな事、絶対にあるわけがないんだから。


§



 朱武さんの素性の話――と見せかけて、実は曽頭市で軽く生死の境を彷徨っている晁蓋君の容態を聞いて精神的に不安定になっている呉用先生を元気づける朱武姐さんの話でした。
 朱武姐さんの設定をフライング後悔公開。元妓女で姐御肌で最終的に呉用先生の嫁になります。ちなみに「朱武」という名前は偽名です。「武」は孫子様からいただいた、という設定。本名は呉用先生しか知りません。呉用先生は二人っきりの時しか朱武さんを本名でしか呼びません。インテリ馬鹿ップルという妙なイメージの二人です。
 そして、朱武姐さんとは別のところでこっそり設定の一部を公開した楊春。「何がどうしてこうなった」好漢の一人に数えられるレベルでの捏造度です。どれくらい捏造しているかといえば、史進入山時の段階なら、史進VS楊春は楊春の勝ちというね。何がどうしてこうなった。
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