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更新履歴、拍手の返信、時に明星について鬱陶しいほど語ってみる
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 前回の四連投(連投じゃなかったけど)から懲りもせず、また創作水滸をやってみる。
 ところでここは一応明星サイトです。一応。徐々に軸足が創作水滸に移っているかもしれませんが。
 というわけで創作水滸の小話投下、行くよー。今回はいつもの簾屋式水滸だよ!


 その前に、拍手、ありがとうございました!


恋の夕景



 夕陽が、やたらと美しかった。
 李俊の漕ぐ舟は、その美しさに相応しい優雅さで以って桟橋に停まった。艫にいる李俊へありがとな、と一言言い残し、晁蓋は先に桟橋へと上がる。続くのは宋江だった。彼女もまた李俊へ礼の言葉を投げかけ、桟橋に上がろうとし――
 何の弾みでか、舟がグラリと揺れた。
 そのせいで、桟橋に上がりかけていた宋江が体勢を崩し、
「きゃっ――」
 小さな悲鳴と共に、転びそうになって、
「江!」
 晁蓋はとっさに手を伸ばす。
 だがそれは必要なかった。揺れは本当に些細なもので、そして宋江は戦場に出て戦う女である。彼女はすぐに体勢を保つと、ホッと一息を吐いて艫の李俊に目をやり、
「ちょっと李俊さん、気を付けてよ」
 と、少し口を尖らせて軽く苦情を伝えた。すると李俊は悪びれもせずに苦笑してみせ、
「すまん、四娘殿」
「もう、混江龍の名が泣くわよ――」
 肩を竦める宋江。それから改めて桟橋に上がろうとして――
 晁蓋が伸ばしたままの手に、気付いた。
 うわ、とばつ悪く胸中で呻く晁蓋。助けようとして手を伸ばして、でも必要なくて、すぐに引っ込めればいいのにそのまま伸ばしたままだった。何やってんだ俺。恥ずかしさを飲み込んで手を引っ込めようとして、

「ありがとう、蓋」

 しかし宋江は薄く笑むと、ごくごく自然に晁蓋の手を取った。
 そしてその手を支えにして、桟橋に上がってくる。
 晁蓋は唖然とした。宋江が何も気にせずこちらの手を取るなんて、あり得ないと思った。この数年で二人の関係はかなり改善したけれど、それでも、幼い日に晁蓋自身が作った溝は深い。
 だから、宋江が晁蓋の手を取るなんて、こんな何でもない時にこちらの手に触れるなんて、あるわけがない。
 信じられない思いを抱きながら、しかし体は自然と動く。宋江の体を引き上げるように力を入れ、だからそのために自分の手に乗せられた宋江の手をより強く握っていて――

 宋江がそれを改めて自覚したのは、桟橋に上がってからだった。

 彼女は目をぱちくりと瞬かせると、晁蓋の手に重ねた自分の手を、まるで何か奇妙な置物でも見るような目つきで見下ろした。その目があっという間に見開かれ、顔がみるみる内に紅潮していく。
 おそらく伸ばされた晁蓋の手を見て、自然に取ってしまったのだろう。それが晁蓋の手だと、その手を取る事は人前で彼と手を繋いでしまう事なのだと、特に意識する事もなく。
 それに気付いた宋江の顔はもう真っ赤だ。うつむいてこちらを見ようともしない。
 だがそんな事どうでも良かった。晁蓋の顔もとっくに真っ赤で、そしてやっぱり、彼女から微妙に視線を逸らしている。彼女の顔を見る? 視線を合わせる? 出来るか、そんな小っ恥ずかしい事。
 だが、それでも何でか繋いだ手は離せなくて。
 離しがたくて。
「も……戻る、か」
「え、……ええ」
 震える声で言い合って。
 顔も上げられないまま頷き合って。
 二人は、手を繋いだまま聚義庁への道を歩き出す。
 宋江の、女らしくない硬い掌を握りながら、晁蓋はぼんやりと思う。
 今が夕暮れ時で、良かった。
 このみっともないほどに真っ赤な顔も、遠目には夕陽に染まったように見えるだろう。

§

 後ろから見ていると、実に初々しい光景だった。
 舟は李俊がわざと揺らしたものだったが、その後の二人の様子は想像以上である。初々しく微笑ましく、甘酸っぱく、そしてじれったい。
 戦時ならともかく、平時は手もろくに繋げなくて、やっとの思いで繋いだと思ったら茹で上がった蟹のように真っ赤っ赤。一体どこの子供だ。突っ込みたい気持ちを抑える李俊の表情は淡い笑みである。
 梁山泊の総頭領と副頭領としてこの山に君臨する晁蓋と宋江。誰に疑問を抱かせる事もなく、当たり前のように大勢の好漢たちを従わせる二人は、その一方で愕然とするほど不器用で拙い恋をしている。
 どちらも相手が好きで、あからさますぎるほどにそれを態度に出しまくっていて。だからお互いの気持ちなどとっくに了解済みのはずなのに、好きだと言う事はおろか、触れる事もままならない。その落差が余りにも激しかったから、
(山東くんだりまでついてきちまったんだよな)
 視線の先、耳まで真っ赤に染まった晁蓋と宋江が、手を繋いでぎこちなく聚義庁の方へと向かっていく。初恋ってのはあんなもんだったかな、と李俊は自身の初恋を思い出して笑みに苦さを混ぜた。
 その相手は、もちろん女房ではない。二十歳を過ぎても初恋の相手一筋で、お互い好き合っているくせしてまるで進展しない阿呆は晁蓋だけだ。
 李俊の初恋の相手は幼馴染みの少女だった。顔を見るだけで嬉しくて、指先が触れ合うだけで何だか気恥ずかしくて、手を繋ぐだけでドキドキした。
 ずっと一緒にいられたらと思った初恋が酷い終局を迎えたのは、十四の時だった。
 泣く事も喚く事も出来ず、ただ呆然とした。
 その事は、何年もの間、ずっと心に棘みたいに刺さっていた。もう誰かに惚れる事はあるまいと、そうとまで思った。
 だが、あれから二十年近く経った今、破れて良かったのだと思える。
 彼女と結ばれていたら、故郷の村でうだつの上がらない漁師か船頭をしていた事だろう。
 童威と童猛を連れて村を出る事もなく、あちこちを流れる事もなく、江南を流れた結果、掲陽鎮にたどり着く事もなかった。
 穆弘や張横、張順、それに――……穆春と出会う事も、なかった。
 彼女に出会っていなければ、惚れる事も、結婚する事もなかった。子供たちが生まれる事もなかった。
 そして晁蓋や宋江と出会う事もなく、梁山に登る事もなかったのだ。
 今の人生には満足している。これ以上は望めないというほどに。女房は愛しくて、子供たちは可愛くて、義兄はムカついて、出来た仲間たちは愉快で、そしてこの生活は中々どうして痛快である。
 ただ、そう、一つだけ難点があるなら、
(春とは、ああいう事はしなかったな)
 出来なかった、と言った方がいい。何せ結婚までの経緯が、色々順序をすっ飛ばしたりした末の成り行きである(成り行き、などと言うと、確実に穆弘に殴られるが)。
 恋愛感情どころか好意らしいものを抱く前に穆春を抱いて、そのあとでやっと彼女に惚れた。その後の関係は極めて良好だから問題ないのだが、だが少しだけ、順序をちゃんと踏まなかった事が惜しい気もする。
 真っ赤な夕陽に照らされてどこか頼りなく歩いていく恋人未満の二人の背を見送って、李俊はもやい綱を手に取った。
 やる事をさっさとやって、さっさと家に帰るとしよう。
 帰ったら、そうだ、穆春を後ろから抱き締めるとか、膝を枕にするとか、そういう事をちょっとだけしよう。
 大切だ、という気持ちを言葉だけでなく行動で示す事、それが夫婦円満の鍵なのだ。

§

「ほら朱武さん、見えるかい? 蓋と江さんが仲良く手を繋いでいるよ!」
「ええ、見えるわ呉用君! あの二人、とうとう手を繋げるまでになったのね!」
「これも蓋が乗った李俊さんの舟に江さんを向かわせた朱武さんの神機のおかげだね!」
「いいえ、わざわざ四娘さんの前で二人に良く話し合うよう言った呉用君の智略のおかげだわ!」
「あははははは!」
「うふふふふふ!」

 そろそろ一発殴っとくか。
 断金亭にてイチャイチャ寄り添いながら高笑いする智多星と神機軍師の後ろ姿に、劉唐はそう決断して拳を固めたのだった。

§

 一方その頃、豹子頭林冲は晁蓋と宋江の邪魔をしに行こうと企む穆弘と宋清の馬鹿兄二人と激しい戦闘を繰り広げていた。


§


 いつもの創作水滸で、ほのぼのラブと見せかけたギャグでした。
 晁蓋君と宋江お嬢様の間に出来た溝のそもそもの原因や、李俊さんの過去、そういえばここではまだお目見えでない神機軍師朱武さんの詳細設定は、まあ気が向いた時にでも。
 ちなみに馬鹿兄二人は、妹の事となればその戦闘能力は林冲に匹敵します。更に鉄扇子は宴会時に限り梁山泊最強になります。簾屋式は基本的に「呑気な水滸」です。多分。
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