更新履歴、拍手の返信、時に明星について鬱陶しいほど語ってみる
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そろそろ『小話』カテゴリを作った方がいいのではないかと思い始めた今日この頃。
まあそれはそれとして、今日のお話は安道全と薛永です。というか小話です。でもって先日更新した『アスクレピオスの苦悩』とリンクしているようなしていないようなよく分からない妄想です。まあ何だっていいんです、主に簾屋が楽しいから。
一応注意。『アスクレピオス~』で拒否反応が出た方は、ちょっと控えた方がいいかも。あれくらい大丈夫、むしろもっと来い! という方は下記リンクからお進みください。
まあそれはそれとして、今日のお話は安道全と薛永です。というか小話です。でもって先日更新した『アスクレピオスの苦悩』とリンクしているようなしていないようなよく分からない妄想です。まあ何だっていいんです、主に簾屋が楽しいから。
一応注意。『アスクレピオス~』で拒否反応が出た方は、ちょっと控えた方がいいかも。あれくらい大丈夫、むしろもっと来い! という方は下記リンクからお進みください。
先日更新した安道全と薛永のお話『アスクレピオスの苦悩』。あれでうっかり腐らない安道全×薛永あるいはごくごく普通の安道全+薛永を思いついたので、書き散らしてみる。
まずは、『アスクレピオス~』のアレがノンフィクションだった場合のバージョン。
§
ポン、と死神に肩を叩かれた気がした。
何も体に不調があったわけではない。ただ、
上着の袖から、指先が出なくなっていた。
今着ている服は、デザインや種類は成人の物だが、しかしサイズは十歳児のもの。虚を衝かれたようにただぼんやりと袖を、指先を見つめていた安道全は、それからどこか疲弊した緩慢な動作で袖をまくった。
出てきた手は、指は、五歳児、いやそれ以下の子供の短くて丸くて危ういそれだった。
手を握る。開く。掌をジッと見下ろす。
「……医師(せんせい)?」
中々起き出してこない事を心配したか、薛永がそんな言葉と共に部屋の戸を開けた。ヒョロリと痩せ細り、包帯で全身を覆った異形の男が顔を見せる。
いや、男ではない。男に見えるが、薛永はこれで一応女だ。それと知っているのは、ここでは安道全だけだが。
「医師、どうしたんデスか? 朝食の準備、出来てますケド」
「薛永」
「ハイ」
「今日の手術の予定は?」
先日の野戦の影響はまだ尾を引いていて、緊急で手術しなくても平気な者は全て応急処置だけ施して後回しにした。そういった者たちの手術の執刀が、ここ数日の安道全の主な仕事になっていた。
「十五人デスけど?」
何故そんな事を、と言いたげに、薛永は首を傾げる。潰れていない右目は不思議そうな光を宿して、今日も理性と狂気の狭間を漂っている。
「十五人か」
「ハイ」
「今日は、まだ持つな」
薛永の目が見開かれた。
ハッと息を飲む音を、安道全は聞いた。
「医師、それは……」
あたふたと部屋に入ってきてこちらの傍に座り込む薛永へ、安道全は、自分の手を掲げてみせる。
それだけで、薛永は全てを理解したようだった。
見せられた安道全の手をソッと取り、ああ、と呻く。
「……嫌ですヨゥ、医師」
「薛永」
「アタシを一人にしちゃ、嫌ですヨゥ……」
思えば奇妙な付き合いだった。
初めは医師と患者で、それから医師と助手兼薬師になって、出会いから今日までの日々を顧みれば、自分と彼女は父子のようでも母子のようでもあり、兄妹のようでも姉弟のようでもあり、友人のようでも、恋人のようでも、夫婦のようでもあった。
それはつまり、言い換えればそのどれでもないという事で。
それでも自分にとってこの女は唯一で、この女にとっても自分は唯一のものだった。
「これは決まっていた事じゃ、薛永」
「嫌ですヨゥ」
「だから、頼みがある」
「嫌デス」
「わしはおそらく、もうすぐ死ぬ」
このまま星の力を使い、外見だけ若返っていけば、いずれ赤ん坊に戻り、胎児に戻り、胚に、受精卵にまで戻るだろう。
中身は九十を過ぎた老人でありながら、外側だけ逆行する。そうした時、どんな醜悪な化け物がそこにあるのか。そしてそんな異形を、一体誰が受け入れ、看取ってくれるのか。
心当たりは一人しかいなかった。
「わしはこの手がメスを握れる最後まで患者を治療し続ける。お主に支えてもらわねばならなくなるだろう。すまぬが、そうなった時は支えておってくれ」
「そんなの、イツだってそうしてるじゃないデスか。イツだって、そうしマス。デスから医師」
「そしてわしが潰える時まで、わしを支えていてくれ」
「医師……」
薛永の目に、大粒の涙が浮かぶ。
安道全は笑った。遺言を告げるのに、笑うのはいささか不謹慎かもしれないが。
「最期のその時まで、わしと共にあってくれ」
薛永がか細く、嫌デスヨゥ、と言った。
嫌デス、嫌デスと泣きながらうわ言のように囁く自分にとってただ一人の女を、安道全は、小さくなった体で抱き締めた。
§
続いて、フィクションだった場合のバージョン。
§
手術衣に赤く丸いシミが浮かんだ。
「安道全医師(せんせい)……」
安道全の手元を照らしている助手の一人がハッとした様子で呻く。安道全自身は、袖先の赤いシミ――自分の鼻血の痕を一瞥しただけだった。すぐに、槍で突かれて内臓を損傷した兵の傷の治療に戻る。
そこから二分もかからず、治療は終わった。
「医師、医師、医師!」
終わったと聞いて即行でトリッキーに駆けつけてきたのは薛永だ。さらしを丸めて鼻に突っ込み、ガンガン痛む頭を抱えていた安道全は駆けつけてきた助手を睨み上げ、
「静まれ薛永。頭に響く」
「……スイマセン、医師。デモ」
肩をすぼめ、背中を丸め、シュンとしょげる薛永の姿は、何だか主人に叱られた犬のようだった。怒る気力がうせた。というか、既にもう何かをする気力がない。
何せ本日の執刀数、二十五。
星の力も大概使いすぎである。
「分かっておる。もう寝るわ。行くぞ」
「――アイサー!」
あっという間にいつものハイテンションに戻った薛永は、安道全を軽々と担ぎ上げた。診療所の奥にある安道全の寝室までしかし爆走しないのは、ここが診療所であるからというだけでなく、疲労困憊した主人の体に負担をかけまいとしているからだ。
安道全に宿る魔星、地霊星。
その力となって発現されるのは、膨大すぎる医療知識と卓越しすぎた医療技術だ。元々神医として名高かった安道全は、それらを得て、他の追随を決して許さない本物の「神医」となった。
が、同時に制約がある。
それはまあ、例えばかつて戴宗が天速星の力を使いすぎて「ガス欠」になったのと似ていて、しかし事によってはそれよりももっと深刻だ。
安道全の力は、脳に負担をかけすぎるのだ。
得られる医療知識は膨大すぎる。それは人間の脳一つでは決して処理しきれない量であり、質である。
それを使いすぎると、どうなるか。
十中八九、脳が壊れ、良くて廃人、悪くて脳死というところ。
だから安道全の力の使用に制限をかける事が決められている。
基本的に、使用は一回三十分。
一日の使用限度は五回まで。連続使用の場合には、間に最低十五分の休憩を設ける事。
そして――これが一番大事なのだが――、一日最低九時間の睡眠を取り、脳を十分休ませる事。
ちなみにさっきの手術が限度の五回目で、制限時間の三十分を五分ほど過ぎていた。零れ落ちた鼻血は、脳の過負荷に体が上げた悲鳴である。
まったく、不便な能力だ。
「医師、夕食は?」
「お主がおらん時に適当に済ませた」
「ジャア、もう寝ます?」
「うむ」
「デハ子守唄を歌いマショウカ?」
「いらん」
「アイサッ。では医師、おやすみナサイ」
「うむ」
痛む頭を抱えて布団にもぐり、ふと、安道全は思った。
……薛永の奴、歌など歌えたのか?
考えると余計に脳がオーバーヒートを起こしそうだったので、何も考えずに寝る事にした。
§
おまけ。簾屋式の安道全(男)→薛永(女)だったらどうなるか。
§
「薛永殿、好きだ」
「そうですか」
「愛している」
「そうですか」
「私の妻になってほしい」
「そうですか」
「もちろんそなたにこの仕事をやめろとは言わない。代わりに私が仕事をやめよう。そしてそなたの日々の雑事を私が引き受けよう! 何、安心したまえ、私はこう見えても家事全般は得意だ。独身生活も長いし手伝いの者も雇っていなかったのでな、大抵の事は一人で出来るぞ!」
「そうですか」
「どうだろう、薛永殿」
「そうですね」
そう言って。
梁山泊が誇る女医・薛永は、感情の薄い双眸を安道全に据えて、血色の悪い唇を小さく動かした。
「では安太医、一つお願いがございます」
「何だね、薛永殿」
「私はこれから往診に行ってまいりますので、帰ってくるまでの間、外来の診察を全てお任せしたいのですが」
「任せてくれ、薛永殿。この安道全、神医の綽号にかけてそなたの代わりを務めよう!」
「……総頭領、薛永殿はいつ帰ってくるのかね?」
「あれ、聞いてねぇ? 江の遠征についてってもらったから、一月は帰ってこねぇぜ」
晁蓋の言葉に診療所の床に崩れ落ちる神医の姿が目撃されたが、誰も気にしなかったのだった。
§
簾屋式の安道全はまだ設定のお目見えをしていないけれど、うっかり書いちゃった☆ でも気にしない、だって楽しいもん主に私が!
さーて、そろそろ正月用のSSを考えなくっちゃな。あと、宋江さん誕生SSも。頑張れ私!
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