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 数日前になりますが、北方水滸の続編『楊令伝』、やっとこ読了しました。
 明日図書館に返さないと多分怒られるので、ボソボソ感想行っときます。

 というわけで下記リンクより『楊令伝』総合感想、適当に参ります。
 十五巻のネタバレとか盛大に含んでおりますので、未読の方、マジでご注意ください。
 ばっち来い! という剛毅な方は、下記よりどうぞ!




 十五巻を読み終えた直後の簾屋の第一声。

 簾屋「……で、牛坤、どこで死んだ?」

 北方御大は、いいキャラを時々サラッと殺すから困ります。というわけで、牛坤君の死に様が描かれた部分を発見された方、どうぞご一報ください。
 というかさ、続編は『岳飛伝』だろ? 明らかに牛皐(史実の岳飛の部下。『説岳全伝』じゃ岳飛の弟分として大活躍の人気キャラ)を仮託してると思われる牛坤を殺していいのか。っていうかちゃんと出そうよ牛皐。
 まあいいや。じゃあ、今回もダラダラとキャラごとに行くよー。


 ・楊令

 結局好きになれなかった人。
 北方御大が楊令殿にすごく思い入れして、力を入れて書いているのはよく解る。北方水滸・楊令伝を全編通して林冲殿や公孫勝殿並みにきっちり描かれているのもよく解る。
 そして楊令殿の生い立ちを考える。幼い頃に実の両親を殺され、喋れなくなり、楊志夫妻の子供となって幸せになるも青蓮寺によって両親を殺され、再び喋れなくなり、二竜山に引き取られてたくさんの人に見守られ、気遣われ、その後子午山の王進先生の元に預けられて鍛えられ、期待を背負って梁山泊に戻るも、官軍によって敗北し、宋江殿から旗を託され、北の阿骨打のところで幻王となってあっちこっちで虐殺をやったり何だったり、その内自分から戻ろうと思っていたのに自分よりも古参の同志に見つけられちゃって、諦めて頭領をやるしかなくなった。
 しかも古参連中も新参の若者も自分の隣に並んでくれるような人はおらず、気が付けば孤独な頭領に。
 ……うん、すごーく不憫な人だよね、楊令殿って。
 そんな不憫な楊令殿に同情はするが、だからと言って好きになる要素が一つも見つからない
 何故か?
 ……結局、私は最後まで楊令殿を血の通った身近な人間に見る事が出来なかった。そういう事なのか。
 いや、十三巻辺りからの楊令殿はきちんと血が通っていると見ていた(多分)。だが、子午山を下りてからの楊令殿とか、『楊令伝』中盤の楊令殿とか……何か、「如何にも」な感じでぶっちゃけそれほど人間としての面白みを感じなかった。
 いっそ料理に挑戦して思いっきり失敗して張平辺りに「あーもう楊令殿、あっち行っててください! 私がやりますから!」って追い払われてしょぼんとする楊令殿とかが描かれていれば良かったんだよ(楊令殿は料理が余り上手くない、って言うのは御大公式)。
 そうしたら多分、私、楊令殿に惚れてたね!

 ちょっとだけ真面目に。
 この人に晁蓋殿にとっての宋江殿、あるいは宋江殿にとっての晁蓋殿がいたら、また物語は違ったんだろうなぁ。
 何もかも全部一人で背負い込まなくて良かったんだよ、楊令殿。今の私にはもうそれしか言えない。


 ・公孫勝

 すばる本誌でお亡くなりになったところを読んで、絶句した。
 十五巻を借りてその部分だけを読んで、「ああ……!」と思わず呻いてしまった。
 そんな事は初めてだった。戴宗殿の死も、鮑旭殿の死も、郭盛殿の死も、扈三娘殿の死も、童猛殿の死も、私は淡々と受け止めた。
 北方水滸でも、人は死んだ。
 楊令伝でも、人は死んだ。
 当たり前の事だった
 だが、公孫勝殿。この人の死だけはショックだった。改めて読んで、尚の事、ショックだった。
 だって『岳飛伝』から公孫勝殿いないんだよ!?
「公孫勝」という表記が字の分で出てくるだけで何かホッとしたこの人が、もう、二度と、出てこないんだよ!? 二度とあのシニカルな口調で喋ってくれないんだよ!? 二度と、二度と、二度と……私たちは、公孫勝殿の新たな行動を目にする事がない。
 私たちは、公孫勝殿を失ったのだ!
 ……ええすみませんちょっと落ち着きます。
 いつの間に私はこんなに公孫勝殿が好きになった。これはあれか、水滸伝時代からいい仕事をしてきた公孫勝殿をジワジワと好きになったパターンか。OK、落ち着けミー。
 とりあえず、公孫勝殿の死がショックでした。

「夢が、実現していくのを、私は見たくない」(楊令伝十五巻P173)

 そうおっしゃった公孫勝殿が切ない……!
 あと、最後の最後で林冲殿について言及された貴方にマジで惚れました。


 ・呉用

 ……大丈夫かしら、この人。
 死ぬつもりが公孫勝殿に死なれ、色々ぶっ飛んでとうとう実戦指揮が出来るようになって。これで楊令殿にまで死なれたと知ったら、「狂え、趙仁」が現実のものとなってしまうんではないだろうか。
 しかも次期頭領が決まってない。
 十三巻辺りで呼延凌君が、「呉用、公孫勝、李俊。もし今次の頭領を選ぶなら、この三人以外は誰も納得しない」とか何とかのたまってましたね。
 これはもう李俊殿に次の頭領を押しつけるのはいかがですか、呉用殿。公式にそんなフラグも立ったみたいだしね!


 ・李俊

 韓世忠に勝ったけど負けてしまい、「俺も年取ったかなぁ」と落ち込んでいらした李俊殿。
 そんな老け込んでいる場合じゃありませんよ!
 楊令殿が亡くなり、頭領不在状態になってしまった梁山泊。
 その危機を救うのは、後伝的に公式三代目の李俊殿しかいないんじゃあないの!?
 しかも、次回作、メコン川の方まで舞台が広がるらしいしねぇ(と、どこかのインタビューで北方御大がご自身でおっしゃっておりました)。
 メコン川=タイ。
 タイ=シャム。
 シャム=水滸伝のラストで李俊さんが王様になったとこ。
 ああつまりメコン川まで行くって事は李俊殿に頭領フラグが立ったって事ですね、北方御大!
 というわけで、簾屋は李俊殿率いる新生梁山泊が韓世忠の阿呆の妨害を受けながらメコン川付近にまで進出してウッハウハとなるであろう『岳飛伝』を割りと楽しみにしています。


 ・韓世忠

 その韓世忠だが、この人、ラストで何しに来たんでしょうね?
 最後の最後に戦場を無意味に(比喩でなく、文字通りの意味で)引っ掻き回して――あ、いや、引っ掻き回しも出来なかったか? ――それで吐く言葉が、

「どうでもいいやつだったが、韓伯竜は一応は弟だった。それを俺自身が討つ、ということになった。楊令がいたがために、俺は弟殺しになったんだよ」(楊令伝十五巻P323)

 しかしこの人、実際韓伯竜を殺す時は、

「弟だ、と言っていた犬が一匹、うちにいたが」(楊令伝十五巻P97)

 とか何とか。何でしょうこの人、分裂してるんですか?
 ちなみに全くどうでもいい話ですが、史実の韓世忠は北方韓世忠のように武挙出身ではなく兵卒からの叩き上げ。
 そしてちょっと裕福な家の出身ではなく、延安府郊外の農家の生まれ、だったはず。
 更に言えば、「伯」は主に長男に使う字で(現在読売新聞で連載中の『草原の風』、光武帝劉秀の物語ですが、劉秀の長兄・劉縯の字が伯升でした。長男・次男・三男・四男の順で伯・仲・叔・季を使うのが中華の伝統の一つですが、多分これ、字限定)、「伯竜」という名だか字だか分からない名を名乗っている韓伯竜は、実は長男坊じゃないかと思う次第。
 というか、北方御大が何を思って韓伯竜を韓世忠の異母弟に持ってきたか、未だによく解りません。作中で特に生かされなかったんじゃないか、この設定。


 ・二世代ーズ

 うん、まあ、頑張れ。
 正直君たちは未だにパッとしないんだが。君たちの死が描かれても何の感銘も受けないんだが。人によってはいつの間にかポコッと死んでいて、「あれー?」とかマジで首捻るんだが。
 とりあえず、古参の同志の皆様を年寄り扱いしたり邪魔者扱いしたり増長したりするなら、その前にちゃんと仕事しろ。きっちり仕事しろ。『岳飛伝』からは今までの比ではない辛さが多分待ってるぞ!


 ・生存中の古参の皆様

 今心配なのは白勝です。
 北方水滸の時代から簾屋が勝手にジンクスにしているものがあります。「その描写がないまま負傷して歩くのに不自由するようになったキャラは、近い内に死ぬ」。
 当てはまる人…解珍殿、蒋敬殿
 そしていつの間にか足を怪我し、車椅子的な物に乗せられるようになってしまった白勝。ああ白勝、大丈夫!? 貴方がいなくなってしまったら、誰が林冲殿と安道全殿の楽しい思い出を語り継ぐというの……!?(いや、元々語り継ぐような人ではありませんけどね、白勝は)
 史進、燕青は特に心配していない。まあお前らは適当にやるだろ。個人的には燕青と李師師のバイオレンス心中(激しく違う)が楽しみだ。
 あと項充。あなたはもう李俊殿の傍で活躍してください。船の舳先で仁王立ちでもしてください。


 ・岳飛

 で、この人、『岳飛伝』でちゃんと秦檜にとっ捕まって縛られて吊るされてブルンブルン振られるんだろうか。
 ……えー、おかしな表現をしましたね。史実の岳飛は秦檜に(一応)無実の罪で捕まって、拷問の末に死にます。
 でも正直、北方御大が主人公にすると決めた岳飛にそんな死に方をさせるとは思えない。
 ではどうするか?
 うん、実はそこもちょっと楽しみ。


 ところで、十五巻最後のシーンで、その岳飛と養子・岳雲のやり取り。

「英雄が、死んだのでしょうか?」
 いや、夢が死んだ。言おうとして、岳飛はその言葉を飲み込んだ。
 夢が、死んだのだ。(楊令伝十五巻P341)

 ……「夢が、死んだのだ」じゃねぇだろ。
 楊令殿一人が死んで死ぬような夢なら、それはそこまでのものじゃあないのか?
 かつて晁蓋殿が死んだ時も、宋江殿が死んだ時も、梁山泊の志は死ななかった。しかし楊令殿の代になったらその夢は、志は、頭領の死と共に死ぬような脆弱なものになってしまったのか?
 そうじゃあないだろう。
 楊令殿という強力なリーダーがいなくなった梁山泊は、設立以来最大の危機を迎えるだろう。その危機は、下手したら梁山泊の瓦解を招くだろう。
 しかしそんな危機はとっくの昔に経験済みだ。
 組織の危機も志の危機も、宋江殿が死に、梁山湖の湖寨が落ちた時に一度経験しているはずだ。
 だったら乗り切れるだろう!
 夢が死んだとか言っている場合じゃないだろ梁山泊! そこから気合いで立ち上がり、再び走り出すタフさを私に見せてくれ!
 散々『楊令伝』をこき下ろしてきた私に、「はっ! そんな事でこき下ろすなんざ、お前はまだまだ未熟だな!」と言ってくれ


 というわけで北方御大、次回作、楽しみにしています。
 ですがお願いですので現存古参同志(まあ端的に言えば主に一〇八星)の劣化はマジ勘弁してください。
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