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更新履歴、拍手の返信、時に明星について鬱陶しいほど語ってみる
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 今日は色々やろうと思っていたのにどうした事かほとんど出来なかったんだぜ!
 まあそんな事はさておいて、今日も行くよ『翠蓮受け10のお題』ブログ小話第十夜!
 最終話の今日のお相手は、何でこの人が絡んでくるんだろう高衙内坊ちゃんだよ!




10.太極


 遠くから、雷鳴が聞こえてきた。

 その音で、僕は意識を幻視した過去から今へと引き戻す。
 夢の中で聞いたのと同じ雷鳴だ。窓の外に目をやれば、空は不穏な薄暗さをたたえていた。
 雨雲は広くこの宋の地を覆い、雷を轟かせ、雨を降らせる。彼女の元にも、僕の元にも。
 視線を、窓から卓へ。僕に幻視を見させた物が無造作に置かれている。
 つい今し方まで煙を吐いていた香炉がある。いや、香炉ではない。まだ細く立ち上っている香の煙だ。
 宿星軍の道士が作った香だった。熟しすぎて腐る一歩手前の果実が放つような、甘ったるい香り。道士が作った物だから、当然ただの香であるはずがない。
 過去を幻視させる香。
 香の匂いによって精神を人の肉体の軛から解放する事で、世界の「大いなる魂」が夢見る過去を覗き見る――とか何とか、この香を作った道士は言っていた。仰々しい話だ。要するに、香の匂いを嗅いでしばらくしたら見たい過去が見られる。そういう事だ。
 そうして垣間見た過去に――僕は、クツクツと押し殺した笑い声を立てた。
「――そうか……」
 現在から、遡っておおよそ十年。遡行して幻視した過去は、概ね僕の満足に値するものだった。
「やっぱり君は、僕が思った通りの人だ……」
 手で軽く顔を覆って、ひとしきり笑いに肩を震わせる僕。胸の中に浮かぶのは、ついさっきまで幻視で見ていた愛しい人の、穏やかであったり、艶やかであったり、初々しくあったりするたくさんの笑顔だ。
 その名を、あの美しい笑顔にとてもとても相応しいその美しい名を、ソッと囁く。

「――――翠蓮」

 十年ほど前、地獣星の宿主として僕たちに認識された少女を見た時、僕も、乾鳥頭も、開封に残っていた僅かな宿星軍の残存も、パパでさえ、言葉を失った。
 僕と彼女の顔立ちが、余りにもよく似ていたから。
 それこそ瓜二つと言っても過言ではないほどに。
 誰もが思わず、僕の、いもしないはずの双子の姉あるいは妹を疑った。だが彼女の素性が明らかになって、今その可能性を疑うものは誰もいない。
 僕以外は。
 いもしない? 何を根拠に、そんな。
 突き詰めれば、僕も彼女も、本当の素性なんてちっとも知れていないというのに。



 ――……僕は、実の両親を知らない。
 どこの誰で、何という名で、何故僕を手放したのか、何も知らない。知る由もない。ついでに言えば、特に知りたいとも思わない。
 僕は、パパの養子だ。生まれてすぐの頃にどこかから貰ってきたのだという。自分の手駒として、育てるために。
 そうやって僕は高姓を背負い、高衙内と呼ばれるようになった。まあその事についてはこれといった感慨はなかった。運が良かったとも悪かったとも思わなかった。なるべくしてなり、収まるべくして収まった――そんな感じしかしなかった。
 それがどうしてなのか、すぐに判った。
 パパはこう話したのだ。お前に僕とおんなじ「闇」を見た――と。
 それはいわば性格の問題とか精神的な性質の話で、そんな性質を持っているからといって何がどうというわけではないけれど、つい、思わず、手元に置いて育ててみたくなった――と。
 僕は、どこかの高官から高い金で買われたのかもしれないし、どこかの庶民の家から盗まれたのかもしれない。
 そこのところは誰にも判らないから、双子の姉だか妹だかがいてもそう不思議はないと思う。彼女だって「旅芸人の娘」ってだけで、その前歴の本当のところは闇の中なのだし。
 その点を、香の幻視で明らかに出来れば、と少しは期待していた。出来なかった。遡行しすぎると膨大な「夢」に飲まれ、精神が壊され、二度と肉体に戻れない、と道士は警告した。胡散臭い奴だが実力は買っている。危険な賭けには出られない。
 しかし同時に、明らかにならなくてもいいんじゃないか、と思ってもいる。僕と彼女に血縁があるかどうかなど関係なしに、僕は信じているからだ。

 彼女が僕の「半身」なのだと。

 僕が男で彼女が女、その差異があるだけの全くの相似形の姿。
 その器に入っている魂は、それなのにまるっきり正反対で、真逆。


 僕が闇なら、彼女は光だ。


 彼女はいつだって輝いている。笑い、泣き、怒る時でさえ、鮮烈な光を放っている。その光は彼女の周囲にある者たちを照らし、パパが覆ったこの国の闇の中で希望を見出す灯し火になろうとしている。
 稲妻・王定六。
 九紋龍・史進。
 浪子・燕青。
 入雲竜・公孫勝。
 短命二郎・阮小五。
 赤髪鬼・劉唐。
 旱地忽律・朱貴。
 豹子頭・林冲。
 そして――流星・戴宗。
 賊徒・替天行道の名ただる男たちが、灯籠に群がる蛾のように彼女にたかるのも、納得行く話だ。
 それほどに彼女は美しく、気高く、眩しく、暖かい。


 欲しい。

 喉から手が出るほど、欲しい。


 自分にないものが欲しい。
 美しいものを手に入れて汚し、自分の色に染めたい。
 ――いいや違うのだ。僕のこの欲求は、そんな、この世の中に掃いて捨てるほどあるような俗悪な欲望とは次元が違う。
 欲望と言うより、渇望。
 渇望と言うより、強迫観念。
 彼女が欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。僕の心に響くその声は甘美で、同時に呪詛のようである。
 それはもう理屈でも何でもない。もっと本能的な、根源的なもの。
 闇を持って生まれ、パパの闇に包まれて育ち、闇に溶け込むべく生きようとする僕。
 光を持って生まれ、光の下で育ち、光に憧れて自ら光たらんとする彼女。
 僕たちはどこまでも同質で、真逆だ。
 僕が闇で、彼女が光。
 僕が陰で、彼女が陽。


 だったら、一つになるべきではないか?


 要するに、そういう事なのだと思う。
 僕たちが実際に血縁にあるのか、同じ胎から生まれた双子なのか、そんなのは知る由もないのだけれど、この魂はきっと同じ一つから分かれ、裂かれ、僕と彼女になった。本来一つであるべき闇と光が僕と彼女に集約された。
 だから、一つになりたい。一つでありたい。
 それだけと言えばそれだけの欲求なので、彼女があの戴宗の妻となり、その子を孕んでもう間もなく産み落とす、と聞いた時も特に激昂したりはしなかった。
 何故ならそんな事に関係なく、彼女の魂は僕のものであり、僕の魂は彼女のものなのだから。
 むしろ喜んだ。愛する男の妻となり、その子を産む。女としては当たり前の、しかし最高の幸せを手に入れた彼女は、今まで以上に輝き、美しい。

 欲しい。
 その輝く彼女こそ、欲しい。

 そのために彼女の夫を殺そう。彼女の子を殺そう。彼女を愛する豹子頭を、旱地忽律を、赤髪鬼を、短命二郎を、入雲竜を、浪子を、九紋龍を、稲妻を、殺し尽くそう。
 その血溜まりの中で、彼女を組み敷き、衣服を引き裂き、壊れるほどに犯し、愛したい。
 そうした時、彼女の瞳は絶望で暗く濁るのか。
 ――否。きっと、僕に犯されて踏みにじられても高潔なまま、決して濁らない光で僕を睨みつけてくれる。
 そんな彼女と憎み憎まれ、殺し殺され、愛し愛されたい。

 その果てで、血も肉も骨も皮も脳も心も魂も、何もかも一つに混ざりあってしまいたい。


 二度と離れないように。



 卓の上の香炉は、もう一筋の煙も吐いていない。
 そしてそれを一顧だにする事なく、僕は部屋にわだかまる薄闇にソッと囁く。
「待ってて、翠蓮」
 美しい彼女の美しい名を受け止めて、闇は僅かに震えて蠢く。

「もうすぐ、迎えに行くから」

 その日は決して遠くない。


 遠雷が、また鳴った。


§


 長っ!
 萌えと趣味を詰め込んだ結果、おかしな話になったが気にしない!

 先に説明。
 翠蓮ちゃんと高衙内坊ちゃんの関係がおかしな事になっていますが、これは例の魔の領域ツイッターにて10のお題考案者の莉子さんが「私の中で二人は双子」と何か萌えな事をおっしゃっていたからです。
 だからうっかりそれで書きたくなりました。
 でもこの設定は元々は全く別の方の設定。いくら何でもそれをそのまま無断拝借するのは物書きの矜持に反する。
 という事で、こういう設定になりました。
 高衙内坊ちゃん・翠蓮ちゃん双子設定を元々やっていらした設定者様、及びその設定で書かれたお話がお好きな方、申し訳ありませんでした! ご不快でしたら是非ともその旨を拍手にておっしゃってください! 即行で削除し、土下座する所存でございます!(だったら書くな)(だって書きたかったんだもん……)

 というわけで、この話における高衙内坊ちゃんのコンセプト。
 高衙内坊ちゃんは、翠蓮ちゃんと同質で真逆の存在。坊ちゃんが言っている通り、二極分化された光と闇。
 血縁は、おそらくありません。顔立ちがそっくりなのは偶然です。ですが光もしくは闇を志向する魂のありようは全く同じ。
 だから高衙内坊ちゃんは翠蓮ちゃんに惹かれるし、もし翠蓮ちゃんが戴宗さんより高衙内坊ちゃんと接触する回数・時間が多かったら、翠蓮ちゃんも高衙内坊ちゃんに惹かれる。
 ただし「惹かれる」がどういう形になるのかは未知数だよ! どちらかがどちらかを憎んで、四六時中相手を殺す事を考えているのも一種の「惹かれる」だと、簾屋は信じて疑わない。


 というわけで、『翠蓮受け10のお題』コンプリート!
 皆様、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
 そしてお題考案者の莉子さん、素敵なお題をありがとうございました!
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